まん延防止等重点措置(まん防)の影響により、2月~4月の約2か月にわたり渋谷のContactで開催されているマンスリー・レジデント企画「Trilogies」。2月度はMars89をレジデントDJに迎え、彼と深い繋がりがあるレベルミュージック / システムミュージック界隈から多数のアーティストが集結した。まん防発令前、2月11日のepisode 1は、ブリストル・ミュージックのプラットフォーム〈BS0〉のスペシャルエディションと、故・飯島直樹が経営していた「DISC SHOP ZERO」のトリビュートイベントとして行われた。飛んで3月25日(金)のepisode 2は、Golpe MortalやKrikor、「Protest Rave」で関わりのあるMari SakuraiやMiru Shinodaらが招聘され、奇祭「Death Disco」として開催された。
今回のインタビュー企画は、4月1日(金)に行われるepisode 3に先んじて、Mars89が改めて各回のキープレイヤーと対談するものだ。episode 1から1TA(BS0 / Bim One Production)、episode 2からMari Sakurai(SLICK)、episode 3から解放新平(melting bot / Local World)が登場し、各々が追求する諸々について談義した。本企画第2回目のインタビューとして、本稿ではMari Sakuraiとの対話をお届けする。
Mars89 × Mari Sakurai

左: Mari Sakurai 右: Mars89
Protest Rave: 2019年10月に端を発するプロテストパーティ。発足当初から様々な問題に対し、「ダンス」を通じて抗っている。
SLICK: 「すべての人が安心してオープンに楽しめる空間」を目指して企画されたクィアパーティー。
― お二人とも「Protest Rave」の中心人物であり、Sakuraiさんは「SLICK」の共同主催者ということで、社会問題に対しても積極的に意見を述べてらっしゃいます。今回はそういった側面を中心にお話をお伺いできればと考えておりまして、まずは「Protest Rave」についてお聞かせ下さい。Mixmag Japanでも第3回目が開催される際にニュースとして取り上げさせてもらいましたが、そのときは「日本学術会議推薦人の任命拒否」に対する抗議が主なテーマでした。それぞれの回で扱うイシューが異なっているように見えますが、“特定の問題に準拠しない”というコンセプトは当初からあったのでしょうか?
Mars89: そうですね。もちろん各回でやるきっかけとなる大きな出来事はあるんですけど、シングルイシューでの抗議は考えていませんでした。というより、例えば学術会議の件がそうですが、ひとつの問題に対して考えた結果、繋がりあった他のイシューに対しても言及する必要が出てきたというのが事実に近いです。あの件は検閲の問題なので、表現の自由の侵害、そしてファシズムに対して抗議をする必要がありました。1回目を開催するにあたって、“参加者がそれぞれ考えて抗議する”ところに重きを置きたい意図もありました。Rave Protestの大枠としては、人間の自由や人権を脅かすものに対する抗議ですね。オリンピックに反対したときには、意図的に様々なイシューを羅列する形で意見を表明していました。
Mari Sakurai: それぞれの人がそれぞれの問題に対して考える機会になればと思っています。自分の主張や意見を言いづらい風潮を私たちも感じていたので、Protest Raveがひとつのきっかけとして存在しているイメージですね。
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Mars89: だからシュプレヒコールとかもやりません。抗議すべきことは自分たちで考えてもらったほうが、参加への準備段階も含めて次に繋がって行くかなと。
― “自分ごととして捉えて”というスタンスは「SLICK」にも共通するのではないかと感じるのですが、いかがですか?
Mari Sakurai: 自分の中ではまた少し考え方が違うと思っています。SLICKはクィアパーティーではありますが、そもそもジェンダーの概念はクィアだけじゃなくてみんなが日常を送る上で思い当たるものだと思っていて。例えば心も体も“自分は女性である”と認識していても、そこには細かいグラデーションがあるんです。だから「クィアパーティー」という形を取りつつも、ある意味でSLICKは“みんなクィアで、みんなジェンダーに関わっている”ってことを伝えるイベントでもあると思います。その意味では、Protest Raveに比べてより身体的なところにエネルギーを使っているように感じますね。
Mars89: 僕がSLICKに遊びに行ったときに感じるのは、“オープンマインドだ”ということ。開かれた場所を作るためにめちゃめちゃ細かいところに気を遣っていて、同じぐらいオープンなパーティはなかなかないですね。他のパーティもSLICKを参考にしたらもっと良くなるのではないでしょうか。確かにProtest Raveとは役割が違うと思います。Protest Raveは街の中でやることに意味があって、街にいる人たちに“こういう人たちがいるんだ、こういう考え方があるんだ”という存在証明をデモンストレーションを通じて行っている側面もあります。自分たちの存在をなかったことにされないために、いかにして日常を過ごす街や社会に自分たちの居場所を作るかみたいな。SLICKはそのパーティーの中にどうやってセーフスペースを作るかってところに意識を割いている印象があります。例えば成田でやってたSLICKみたいに、“そこに行けばユートピアがある”ということが実現できれば、あらゆる人にとって救いになると思います。
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Mari Sakurai: 成田の会場も元々その土地の農民の方々が守ってきた場所だったので、セーフスペースを打ち出したパーティをやるにあたって重要な意味があったんです。コンセプチュアルに場所を探していたわけではないんですけど、その場所の権利者の方とお話をしているうちに分かってきたことで、そういう歴史も踏まえて「ぜひやらせて下さい」とお願いしました。
Mars89: 成田闘争(編註: 成田市・山武郡芝山町の地元住民および新左翼活動家らによる新東京国際空港の建設または存続に反対する闘争)もまだ続いているみたいですね。調べてみると、今も闘争中だと分かります。
Mari Sakurai: そうなんだよね。闘争の当事者世代の子供にまでは背景が伝わっていないところもあるらしく、事情を知らずに売っちゃう場合もあるみたい。おじいちゃん / おばあちゃんが勝ち取った土地が勝手に売られちゃうケースもあるって話です。
― 日本社会の特徴として、保守的な考えが蔓延しやすい側面はあると思います。政権交代も起きにくく、ジェンダーギャップ指数もG7で最下位、人口比率的に選挙でも若者の声が通りにくいという…。そのような社会において、「Protest Rave」や「SLICK」のような活動をする上で難しさはありますか?
Mari Sakurai: ポジティブな方面で分かったことのほうが多いですね。ネットやテレビを見ると自分の気持ちを言語化できずにモヤモヤするんですけど、そういう心情を具体化できなくともアウトプットする大事さを学べたのは大きいと思っています。やっぱりメディアを通して見ると、問題が遠いもののように感じてしまうんですね。人対人の現場に行くと、そういった問題も自分の中で実体化できる気はします。Protest Raveは私のデモに対する認識を変えてくれました。難しさを言うと、色んなイシューを扱うことによって運動が複雑化してしまうところですね。私たちにとってはこれがカジュアルで分かりやすいものなんですけど、他の人から見るとそうではないっていう。
Mars89: 他のデモだと事前にプラカードのサンプルを配られることがあるんですけど、僕らは主催としてそれをやってなくて。作り方は教えるんですが、実際のプラカードは基本的に各自で持ってきてもらっています。ただ、そうすると結構な割合の人が持ってこないんですよね。段ボールに殴り書きでもなんでも良いから、僕らとしては色んなプラカードがあるほうが理想なんですけど…。コンセプトや内容にカルチュアルな部分もあるので、もしかしたら比較的ハイコンテクストな運動に見えている可能性は確かにあります。
Mari Sakurai: 自分の意見や主張が間違ってたらどうしようとか考えてしまう人も多いのかなと感じますね。ひとつの大きな問題に対してじゃなくてマルチイシューを扱うと、それぞれに責任を負わなきゃいけない気持ちになるというか。そこでハードルが上がってしまうところはあるかもしれません。
― ハイコンテクストになってしまうんですね。テクノやハウスは言葉がそれほど重要でない場合も多いので、むしろそういった知識の有無を超えられると思っていました。
Mars89: まず、人前でダンスをして自由を表明することが政治的な態度だっていうところでひとつ壁があるんです。やっぱり日本だと、楽しむことが怒りや抵抗と全然結びつかない人が多くて。それを理解するまでに割と時間や労力が必要だったりするので、そういう意味では少し複雑な面もあると思います。それに、今まであったような直接的なデモのスタイルが「デモ」だと考えると、僕らがやってることが“ただ騒いでるだけ”みたいに見えるかもしれません。まぁでも逆説的には、自分たちと似たタイプの人たちにはProtest Raveのほうが参加しやすい可能性もありますが。
Mari Sakurai: もちろん自分と価値観が違う人とも対話できるように、なるべくフラットでいたいとは思いますけどね。SNSとか見てるとどうしても自分と近い考え方の人の意見が目に入りやすいので、同じ意見を持つ者同士で固まってしまいやすいと思うんですけど、基本的にはどの考えも否定したくないというか。シンプルに自分の意見を持ちつつも、思考に偏りがないようにしたいんです。完璧にフラットでいることが不可能だとしても。
― 反対の価値観を持つ人と対話するのって、なかなか難しいと感じます。そういう意味では、「SLICK」も「Protest Rave」も品と美しさがあると思いますよ。私なんかは、SNSにはびこる罵詈雑言を眺めてはイライラして、そして心底落ち込み、結局何もできないということもしばしばです…。
Mars89: いやでも僕も「これはないな」って思う表現に関しては拒否しますよ(笑)。例えば特定の属性の人たちを貶めるような表現があれば、仮にProtest Raveの参加者だったとしても取り下げるように伝えます。それについてはProtest Raveをやる度に注意喚起してますし。いわゆるトーン・ポリシング(編註: 問題点を棚上げし、その内容ではなく発せられた言葉を非難すること)に対しては、むしろ強い言葉を使って抗議する場合もあります。
Mari Sakurai: そういうのもシングルイシューに対するデモだと起きやすい気がするな。オリンピック反対の時とか、この間新宿でやった、ウクライナ侵攻に対する抗議のときとか。そのときは結構過激な表現を使ってる人も見かけました。みんな同じ方向を向いているように見えても、その中でもかなり幅があるというか。私も差別や暴力を助長する考え方にはもちろん反対です。
― お二人の場合、そういった過激な表現を浴びせられる側にもなりうるわけですよね。名前を出して、活動の矢面に立っているという点では。そういうときのメンタルヘルスの保ち方は個人的にもお伺いしたいです。
Mars89: 矢面に立ってる実感はあまりないですね。まず僕は男性だし国籍も日本なので、この国の中ではマジョリティの側にいる自覚があります。なので攻撃はされにくいですね。社会のあらゆる不平等は、基本的にマジョリティというか権力勾配の上にいる側に責任があるので、なおさら無視できないですね。だからまぁ、ビビってる場合でもないというか。
Mari Sakurai: 私も何かを代表しているつもりはないですね。自分の意志を表明しているだけなので、それはそもそも私の一部でしかないというか。考えを言うことにプレッシャーも特に感じないんですけど、Marsくんが言うようにマジョリティ側のポジションにいるってことは忘れずにいたいですね。一般論として女性の方が差別の対象になりやすいし、性的な視線に晒される場面も多いと思いますが、多数派にいるとそういう構造に気付けなかったりするんですよ。私が差別的な考え方に対して思うのは、「ひとりだけ生き残って楽しいのか?」ということですね。クラブで遊ぶのもそうなんですけど、私は自分以外の人間とその空間を共有できるのが楽しくて。だから人の状況が結果的に自分の幸せに繋がってくるはずで、それに気づければ思いつめることもないんじゃないでしょうか。
Mars89: 男性だけの空間、いわゆるボーイズクラブみたいな場所だと似たようなカテゴリの人しかいないんですよね。ホモソーシャルなコミュニティは、その中の人は楽しいんですけど、その外側まで目が向かないというか。だから差別的な構造が視界に入ってこない。そういうマスキュリンなコミュニケーションが大半の空間だと、僕としても居心地が悪いんです。色んな人がいるところで、色んな仲間を作ったほうが楽しい。「SLICK」はそういうスペースを作っていると思います。
― 最後に、今回のインタビュー企画の共通質問にお答えいただけると嬉しいです。未来に期待していることはありますか?
Mari Sakurai: 私は期待しかないですね(笑)。色んなことに絶望しつつも、未来を悲観することはあまりないです。常に“今よりは良くなるだろう”という感覚があります。つまり今より良い日がずっと続いていくので、もう明日とかにも期待してますから。
Mars89: そういう考え方マジでMariちゃんのめっちゃ良いところな気がしてて、最高です。
Interview_Yuki Kawasaki
■ Trilogies -Mars89- episode 3 NEW DAWN
2022.04.01 (Fri.)
@ Contact Tokyo
OPEN 22:00
<イベント詳細>
https://www.contacttokyo.com/schedule/trilogies-mars89-episode-3-2/
■ Mari Sakurai 出演パーティ
4/6(水)”MOAR” @Contact
4/9(土)”SΛGΛ” @Circus
*どちらも4月から始まるニューパーティ!
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